大阪地方裁判所 昭和51年(ワ)2648号 判決 1978年6月30日
主文
被告は原告に対し金九一七万〇八三三円およびこれに対する昭和五〇年三月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
原告の第一次請求、および第二次請求のその余の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は被告の負担とする。
この判決の第一項は仮に執行することができる。
事実
第一 当事者の求めた裁判
(原告)
一 第一次請求の趣旨
1 被告は原告に対し金八二九万〇四三三円およびこれに対する昭和五〇年二月二八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言
二 第二次請求の趣旨
1 被告は原告に対し金一〇二七万一三三三円およびこれに対する昭和五〇年三月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言
(被告)
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
第二 当事者の主張
(請求原因)
一 第一次請求原因
1 原告は、Aが昭和五〇年二月二八日死亡し、その相続人があることが明らかでないため成立した亡A相続財産法人である。
被告はわが国の貿易の振興に関する事業を総合的かつ効率的に実施することを目的とし、昭和三三年七月二五日日本貿易振興会法により昭和二六年二月二八日設立の財団法人海外貿易振興会の一切の権利、業務を承継して設立された特殊法人である。
Aは昭和二六年五月一八日から右財団法人海外貿易振興会および被告に雇われ、その従業員として被告の従たる事務所である大阪本部に勤務してきた。
2 Aは昭和五〇年一月頃と二月初旬に被告大阪本部に対し、心身の疲労、持病の高血圧症および他の従業員との不和等のやむを得ざる事由により同年二月二八日付を以って退職する旨の意思表示をしたので、両者間の雇用関係は同月二七日を以って終了し、前記のとおり、Aは同月二八日死亡したので、同女の生前退職金は相続財産となつた。
右「二月二八日付をもつて」とは、二月二八日「に」退職するということである。したがつて右同日が到来すれば、右同日「に」になるわけであるから、右同日の到来により両者間の雇用関係は終了した。
3 被告には、内部規程として「職員の退職手当に関する規程(昭和三五年八月二七日、日本貿易振興会規程第一四号、最新改正昭和五〇年四月一五日)」があり、
それによると退職金等につき、左記のとおり定められている。
記
(支給の割合)
第三条 退職した職員に対する退職の手当の額は、退職時におけるその職員の本俸月額に、その職員の勤続期間を次の各号に区分して当該各号に掲げる割合を乗じて得た額の合計額とする。ただし、本文の規定により計算した退職手当の額が、職員の退職の月における本俸の月額に一〇〇分の五五〇〇を乗じて得た額をこえるときは、本文の規定に拘わらず、その乗じて得た額を退職手当の額とする。>
一 六月以上五年以下の期間 一年につき一〇〇分の一〇〇
二 五年をこえ一〇年までの期間 一年につき一〇〇分の一四〇
三 一〇年をこえ二〇年までの期間 一年につき一〇〇分の一八〇
四 二〇年をこえ三〇年までの期間 一年につき一〇〇分の二〇〇
五 三〇年をこえる期間 一年につき一〇〇分の一〇〇
(勤続期間の端数計算)
第四条 勤続期間に一年未満の端数があるときは、月額をもつて計算し、一月未満の端数については、これを切り上げる。ただし、勤続期間中停職であった期間は算入せず、休職であった期間は二分の一に計算する。
(附則)
3 勤続年数の計算に当っては、財団法人海外市場調査会および財団法人海外貿易振興会における勤続年数と本会における勤続年数とを通算する。
4 Aの昭和五〇年二月の本俸は、三等級一五号俸(月額二二万〇一〇〇円)で、勤続年数は二三年一〇か月であるから、これにより原告の受けるべき退職金を計算すると左記のとおり金八二九万〇四三三円となる。
220100×5×100÷100=1100500円
220100×5×140÷100=1540700円
220100×10×180÷100=3961800円
220100×3 10÷12×200÷100=1687433円
合計金 八二九万〇四三三円
5 よって、右退職金八二九万〇四三三円および右金員に対する退職の日の翌日である昭和五〇年二月二八日から支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 第二次請求原因
1 仮にAが昭和五〇年二月二七日限り退職したことが認められないとしても、原告が亡Aの相続財産法人であり、Aが被告に勤務してきたこと、同女が同月二八日死亡したことは第一次請求原因1に記載したとおりである。
被告には内部規程として「職員の退職手当に関する規程」があり、退職金等につき第三条、第四条および附則3において規定されていることは第一次請求原因3に記載したとおりであり、さらに右規定には左の条項が定められている。
(退職手当の増額)
第五条 職員が次の各号に該当する場合は、第二条第一項の規定により算出した退職手当の額に、退職時の本俸月額の一〇〇分の五〇〇以内の割合を乗じて得た額に相当する金額を加算することができる。
一 業務上の負傷もしくは疾病により退職し、もしくは解雇された場合、または在職中に死亡した場合
(弔慰金)
第七条 職員が在職中死亡した場合においては、退職手当の外に、その者の死亡当時の本俸月額に一〇〇分の四〇〇を乗じて得た金額を弔慰金として別に支給する。
2 Aの昭和五〇年二月の本俸は、三等級一五号俸(月額金二二万〇一〇〇円)で、勤続年数は二三年一〇か月であるから、これにより原告の受けるべき退職金等を計算すると左記のとおり合計金一〇二七万一三三三円となる。
(一) 退職金九三九万〇九三三円
220100×5×100÷100=1100500円
220100×5×140÷100=1540700円
220100×10×180÷100×3961800円
220100×3 10÷12×200÷100=1687433円
220100×500÷100=1100500円 加算金
(二) 弔慰金八八万〇四〇〇円
220100×400÷100=880400円
3 退職金は、生前に退職して受取つた場合には被相続人がこれを処分しないかぎり相続財産となるところ、退職金は賃金の後払い的性質を有するものであるから、賃金の一種とみる以上、死亡退職金も一旦は本人の権利として把握されるべきである。このように亘は本人の権利として把握されるその可処分性に基づき本件の場合予め就業規則により受給権者は本来の相続順位と一致しない労働契約を締結したものというべく、したがってその限りにおいて拘束を受けるものであるが、就業規則に定める死亡退職金の受給権者が現実に存在しない場合は、かかる拘束はなくなるわけであるから、公務員の法令に基づく死亡退職金の場合でない本件のような法令に基づかない死亡退職金の場合は本来にかえって一旦は本人の権利として自由に把握されるべき相続の対象財産となるというべきである。
4 よつて、原告は被告に対し退職金および弔慰金の合計金一〇二七万一三三三円および右金員に対する退職の日の翌日である昭和五〇年三月一日から支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(請求原因に対する答弁)
一 第一次請求原因1および3は認め、同2は否認する。同4のうちAの昭和五〇年二月の本俸が三等級一五号俸(月額金二二万〇一〇〇円)で、勤続年数が二三年一〇月であることを認め、その余は否認する。
第二次請求原因1は認める。同2のうち、Aの昭和五〇年二月の本俸が三等級一五号俸(月額金二二万〇一〇〇円)で、勤続年数が二三年一〇か月であることを認め、その余は否認する。同3は争う。
被告の職員の退職手当に関する規程には原告主張の規定のほかに次のような条項が存在する。
(適用範囲)
第二条 この視程による退職手当は本会の職員で常時勤務に服することを要する者が退職した場合に、その者(死亡による退職の場合には、その遺族)に支給する。
(遺族の範囲および順位)
第八条 第二条に規定する遺族は、次の各号に掲げる者とする。
一 配偶者(届出をしないが、職員の死亡当時事実上婚姻関係と同様の事情にあった者を含む。)
二 子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹で職員の死亡当時主としてその収入によつて生計を維持していたもの。
三 前各号に掲げる者の外、職員の死亡当時主としてその収入によって生計を維持していた親族
四 子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹で第二号に該当しないもの。
2 前掲に掲げる者が退職手当を受ける順位は、前項各号の順位により、第二号及び第四号に掲げる者のうちにあっては、同号に掲げる順位による。この場合において、父母については養父母を先にし、実父母を後にし、祖父母については養父母の父母を先にし、実父母の母父を後にし、父母の養父母を先にし、父母の実父母を後にする。
3 退職手当の支給を受けるべき同順位の者が二人以上ある場合はその人数によって等分に支給する。
二 被告の退職金規程によると、職員が死亡退職した場合、退職金を受給できる権利を有するものは遺族とされ、しかもその遺族の範囲、順位は明示かつ確定的に定められている。したがってこれらの遺族が死亡退職金を自己の固有の権利として取得するものであって、Aの相続財産ではないのである。
第三 証拠(省略)
理由
一 第一次請求について
第一次請求原因1および3の各事実ならびに同4のうち、Aの昭和五〇年二月の本俸が三等級一五号俸(月額金二二万〇一〇〇円)で、勤続年数が二三年一〇か月であることはそれぞれ当事者間に争いがない。
原告はAが昭和五〇年二月二七日限り被告を退職した旨主張するけれども、右主張を認めるに足りる証拠はなく、生前退職を前提とする原告の第一次請求はその余の点を判断するまでもなく失当である。
二 第二次請求について
1 第二次請求原因1の事実、同2のうち、Aの昭和五〇年二月の本俸が三等級一五俸(月額金二二万〇一〇〇円)で、勤続年数が二三年一〇か月であることは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲二号証の二によれば、被告の職員の退職手当に関する規程には原告主張の規定のほかに、第二条、第八条において被告主張のとおりの条項が存在することが認められ、右認定に反する証拠はない。
以上の事実によれば、Aは被告の従たる事務所である大阪本部に在職中の昭和五〇年二月二八日死亡し、そのため被告の職員の退職手当に関する規程第八条によりAの遺族に対して死亡退職金が支給されることとなつたが、同女にはその遺族が存在せず、同女の相続人のあることが明らかでないものである。
原告はAの死亡退職金が本来的には相続財産に含まれると主張するので検討する。
成立に争いのない甲第一号証によれば、被告の職員は刑法その他の罰則の適用について法令により公務に従事する職員とみなされ、被告の役員及び職員に対する給与及び退職手当の支給基準を定めるときは通商産業大臣の監督を受けるものの、被告が定めた前記規程によつて被告の職員に退職金が支給されるものであることが認められ、以上の事実によれば、被告がその職員に支給する死亡退職金は本来的には相続財産を構成すべきものと解するのが相当であり、死亡退職金の受給権者も死亡職員の相続人も存在しないときは死亡退職金は相続財産法人を構成する財産に含まれると言うべきである。
2 そこで、Aの死亡退職金等の金額について検討する。
前記当事者間に争いのない第一次請求原因2および第二次請求原因1の事実によれば、Aの死亡退職金は金八二九万〇四三三円であることが計算上明らかである。なお原告は退職金の加算されるべきである旨主張するけれども、その支給実体について原告は何らの主張立証もしないので、加算の規定が存することから当然に退職金が加算されるとは言えず、この点に関する原告の主張は理由がない。
右規程第七条によれば、Aには弔慰金として原告主張のとおり金八八万〇四〇〇円が支給されることが認められ、右弔慰金も相続財産に含まれるというべきである。
三 以上のとおり、原告の第二次請求は退職金および弔慰金の合計金九一七万〇八三三円およびこれに対する退職の翌日である昭和五〇年三月一日から支払ずみまで民事法定利率年五年分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余の請求および原告の第一次請求はいずれも失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法第八九条、九二条但書を、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。